cinemaroomのブログ

気の向くまま赴くまま

終戦記念日に「野火」と「ゆきゆきて、神軍」

毎年この時期になればテレビやニュースで戦争の話題が持ち上がり、戦争の悲惨さを伝えているが、何というか少し被害者意識のように感じられて違和感を感じる。

 

原爆によって何の罪もない民間人が沢山亡くなったとか、未来ある若者が特攻隊になって散っていったとか、、、

それらは確かに事実でみんな戦争の被害者ではあるが、日本は戦争に負けただけであって、沢山迷惑をかけたことに変わりはないのだ。

他の国を侵略するために日本が始めた戦争なのに何を被害者面してるのかと少し恥ずかしくなるし、戦死者達を祭り上げて美談にしてる媒体には反吐が出る。

 

少しはドイツを見習え。

ナチスによってとんでもない数のユダヤ人が殺され、隣国を侵略してきた歴史を隠さずにむしろ過ちを認めて反省している。

過去にナチスが迷惑をかけたお詫びに難民受け入れを積極的に行ったりと国際社会に協力している。

 

そこにきて我が国日本は戦時中の話になると、貝のように口を閉ざしてしまう。

そう、戦争の話題はタブーなのだ。

右寄りでも、左寄りでも口にしてはいけない。

中立に立ってことなかれ主義を貫かねば世間様に後ろ指をさされるのだ。

戦争の話題を口にする時はできるだけ美談にしなければ揉み消されてしまう。

確実に中国や韓国に迷惑をかけてきたが、ナァナァのままなのだ。

 

さぁ、それでは日本の戦争映画はどうだろう。

ワタシが思うに大体のものが戦争を感動アクションもののファンタジーにし、美談として終わらせている。

戦争映画なのに顔色が良く肌が綺麗でメイクをして眉毛が整ってるイケメン俳優が起用されるような、役作りもクソもない舐めた戦争映画がほとんどだ。

そうじゃなきゃ企画が通らないんだろう。実に下らない。国を挙げて下らないのだ。

火垂るの墓」なんかは一度観たらお腹いっぱいになるほどのトラウマ映画だが、あれもやはり民間の被害者視点で日本兵の悪事はよく分からない。

 

そんな中、数年前に塚本晋也監督で制作された「野火」この映画を観て、こういう考えの人がちゃんといるんだと少し安心した。

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まずビジュアルが良い。

戦争という極限状態の兵隊をよく役作りできていると思う。

戦争映画の名作「プライベートライアン」と比べるのは酷だが、戦争映画というからには最低でもビジュアル的にはここまでやってほしい。

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所詮イケメン俳優にはこんな風に鼻水を垂らしながらの演技なんて事務所のNGが出てできないだろう。実に下らない。

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ここまで真摯に戦争に向き合った作品なのに、結局は出資者が集まらず自主制作になったと何かで見たが、それには心底呆れてしまった。

お金があればもっとクオリティーの高い作品にできたのか、はたまたお金が無いからこそ知恵を絞ってこういった素晴らしい作品ができたのか、それは比べることはできないが、、、

出資者が現れないということはやはりこの国は戦争を正直に話すことがタブーなのだろう。

 

内容的には戦闘シーンはほとんど無いが、レイテ島で完全に追い込まれ、満足な武器も食料も無く極限に追い込まれていく日本兵がやがては味方を殺し人肉を食うという蛮行に走る。

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えーー、そんなことしてたの?フィクションでしょ?って思う人もいるだろうが、そんな人には是非観てほしい「ゆきゆきて、神軍」というドキュメンタリー映画がある。

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この指が欠損している胡散臭いおっさん、奥崎謙三氏に密着したドキュメントだが、なんとこのおっさん、先に挙げた映画「野火」のような極限状態でニューギニアの激戦地から生き延びた人物なのだ。

彼は戦後、戦争を始めた責任を取れと昭和天皇を憎み極左となり、左翼活動に走っていく。

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一見、物腰は柔らかく落ち着いていて紳士的な人物に見える時があるが、根本的にイカれている人物で、殺人事件も起こしているし、何かあるとすぐに暴力に走る危険な人物なのだ。

戦争中も上官を殴り食糧を奪っていたとか。

 

そんな奥崎は戦後のある日、自分が所属していた部隊で上官が部下を射殺した事件があったことを知り、その部下の親族と上官の元に行き真相を暴き始める。

皆んな初めはしらを切るのだが、奥崎は得意の暴力で証言を引き出し、色んな上官の家を回って奔走するのだが、そこで判明した事実が、やはり味方を殺して食べていたという衝撃的内容だった。

そう、やっぱり「野火」にもあったような共食いは実在したのだ。

キレる奥崎、銃をもってかつての上官宅に押しかけ発砲。殺人未遂で捕まるという期待通りのことをやってくれるのだが、観終わった後に思うのが、果たしてこの奥崎、元からイカれていたのか、もしくは戦争が彼を狂人にしてしまったのか。

戦争の狂気をそのまま体現しているような奥崎謙三を是非この映画で観てほしい。

この奥崎については後の映画があるが、それはまたその内お話したい。

 

どこの国も自国をよく描きたがっているのは分かるが、戦争映画だけは事実であってリアルでなくてはいけない。

そこには一切の美談なんて必要なく、一度観たらトラウマになって二度と観たくなくなるような作品を作るべきだと思うし、それが戦争の悲惨さを伝えていくことではなかろうか。